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むずむず脚症候群と慢性炎症に伴う貧血と鉄代謝

 むずむず脚と慢性炎症によるフェリチン上昇

見かけ上フェリチンが高くなることがあります

「他の病院でリウマチの治療を受けているのですが・・・」

「寝る前に足を動かしたくなって眠れないんです」


 

体のコンディションによって、フェリチンの数値は
高くなることがあります。

次の場合、フェリチンは上昇してしまいます。

・感染症

・がん

・膠原病

 

 血液検査で調べます

見かけ上、フェリチンが高い状態を見分けるため、外来では、次のような血液検査の項目で判断します。

・TIBC

・血清鉄(Fe)

・CRP(炎症のマーカー)

 

簡単に役割を説明すると、

TIBC(総鉄結合能)は、このトランスフェリンが結合できる鉄の量を表したものです。

一方、鉄と結合していないトランスフェリンは、UIBC(不飽和鉄結合能)です。

 

血液中では、鉄はトランスフェリンとくっついて、
各組織に運搬されるのです。

→トランスフェリンは「鉄の運び屋」みたいな感じです。

 

※参考までに、以下の公式が成り立ちます。

TIBC = UIBC + 血清鉄(Fe)

 

 慢性炎症があるときの貧血の解釈について

感染症、膠原病、悪性腫瘍など、慢性炎症が引き起こす貧血は、慢性炎症に伴う貧血と呼ばれています。

→血清フェリチン上昇、血清鉄の減少、TIBCの減少を確認します。

 

鉄欠乏性貧血のときは、TIBCは高い数値となります。

 

詳しくは・・・

インターロイキン6などの炎症性サイトカインが増えると、ヘプシジンの分泌が促進されます。

このペプチドホルモンによって、十二指腸での鉄の吸収低下が起き、網内系細胞からの鉄の放出が抑えられるためです。

鉄の利用障害が背景にあります。
 

 慢性関節リウマチの可能性は?

むずむず脚症候群の症状を呈する病気として、慢性関節リウマチがあります。

慢性の炎症性疾患であるので、注意が必要です。

疑わしい場合は、血液検査で抗CCP抗体の追加オーダーを考えます。

CRPが高い、血清鉄(Fe)が低い、
そして、TIBCが低いかを見ます。

ちなみに、変形性膝関節症も鑑別すべき病気です。

治療管理として、基礎疾患の治療を優先します。
整形外科、膠原病内科との連携です。

 

 他の原因は?

鉄欠乏性貧血、慢性関節リウマチの他にも、むずむず脚を引き起こす二次性要因があります。

・ビタミンB12の不足

・葉酸の不足

・糖尿病

・腎不全(透析患者に多いです)

・薬剤性

 

次回は、レストレスレッグス症候群と女性に多い「鉄欠乏性貧血の症状」に焦点を当てます(つづく)。

むずむず脚症候群と鉄欠乏の見方

むずむず脚症候群の場合に行う検査結果の解釈

「病院で受けた血液検査では貧血はないと言われました」

「でも、じっとしていられない足の症状はあるのですが・・・」

むずむず脚の症状があるとき、鉄代謝に関わる
血液検査の結果について考察します。

 

体内にある鉄の貯蔵量が大切です

一般的には、鉄欠乏性貧血の重症度はヘモグロビンの程度、貯蔵鉄の数値、自覚症状などで、変わってきます。

むずむず脚症候群の治療管理を理解する上で、簡単に次の三つにします。

1.正常

2.潜在性鉄欠乏症

3.鉄欠乏性貧血

 

1の場合は、正常なので、白と仮定します。貧血がない、貯蔵鉄も十分。

3の場合では、貧血があって、貯蔵鉄も枯渇している。いわゆる黒の状態と仮定します。

 

注意すべきは・・・

2.潜在性鉄欠乏症の場合。

ヘモグロビンは正常で貧血なしと判断されますが、
貯蔵鉄が減っている状態です。

白でも、黒でもない、中間にある「灰色の領域」です。

 

治療管理について

鉄欠乏性貧血+むずむず脚症候群であれば、
容易に判断がついて、鉄補充療法を開始します。

 

一方、むずむず脚症候群の症状を訴える方の血液検査が、
「灰色の領域」(ヘモグロビン正常、フェリチン低下)を示しても、
やはり鉄の補充が治療管理となります。

 

鉄欠乏がむずむず脚の症状を引き起こす

貯蔵鉄の低下は、脳内のドパミン機能に影響します。簡単に理解するためのメカニズムは、以下のイメージです。

潜在性鉄欠乏症(体内の鉄の貯金が少ないイメージ)

脳内で、鉄分の不足によるドパミンのはたらき低下

むずむず脚の症状が出現

 

潜在性鉄欠乏症を見つけるのに、
血清フェリチン測定が大切です。

 

貧血のない鉄不足でも発症する「むずむず脚の原因」を
見つけるには、「血清フェリチン」という検査項目が
役立ちます。

 

体内の鉄分不足を治療するときの目標

どの程度まで、フェリチンを回復させるべきか?

一般的には、75 ng/ml以上を目標とします。

数ヶ月かかる場合があります。

 

ただし、長い間、鉄不足状態が続いている場合は、鉄剤の補給でも
むずむず脚の症状が、なかなかとれないことがあります。

この場合、ドパミン製剤を検討します。

 

ふりかえり

「むずむず脚症候群にはドパミンが効くと書いてあったから薬を欲しい」

 

血液検査による鉄代謝の評価を受けずに、ドパミンアゴニストを飲み始めることは要注意です。

たしかに、ドパミンアゴニストは、「むずむず脚の症状」を緩和する効果はあります。

しかし、鉄分の不足が背景にあれば、鉄分の補充によって根本的に治る可能性があるのです。

 

「病院の血液検査では、貧血はないと言われたけど・・・」

 

貧血がなくても、体内の鉄分不足である潜在性鉄欠乏症があれば、むずむず脚の症状が起こる可能性があります。

「血清フェリチン」の数値がどのくらいか、体内の鉄分について、詳しく調べておきたいものです。

 

次回は、むずむず脚とフェリチン測定の注意点についてお伝えします(つづく)

むずむず脚症候群と原因検索の血液検査

むずむず脚症候群の原因を探るための血液検査

「何が原因なのか、気になってしょうがない」

「どんな検査の項目で分かるのですか」


 
インターネットで調べた結果、自分の症状がむずむず脚であることが分かると、原因について疑問に思います。

今回は、血液検査を中心に話をします。

 

原因:一次性と二次性の違いとは?

むずむず脚症候群は大きく分けると、原因不明である一次性と何からかの原因がある二次性があります。

脳にある神経伝達物質「ドパミン」のはたらきが低下することが、脚の症状を引き起こしていると考えられています。

一方、貧血、腎不全(透析)、関節リウマチが原因であることもあります

二次性の「むずむず脚症候群」と呼ばれます。
 

二次性要因を調べる理由

貧血、鉄不足が関係していることが多いのです。

実は、体内の鉄分が不足するとドパミンの働きに影響します。

女性の場合、貧血が要因となって場合が多いのです。

そのため、血液検査を行うのです。

 

血液検査ではどんな項目を調べるのか?

貧血の評価と言えば、血算という検査項目です。その中でも、ヘモグロビン(血色素量)のレベルを確認します。

しかし、ヘモグロビンが正常でも、むずむず脚症候群の症状が出現することが少なくありません。

そこで、血清フェリチン(貯蔵鉄の指標です)を測定します。

むずむず脚の外来では定番の検査です。
 

鉄代謝について詳しく調べます

「病院や健康診断で、貧血はないと言われたけど・・・」
 

血清フェリチンを測定することで、体の鉄分が不足しているかが分かります。

むずむず脚症候群で悩んでいる場合、未測定なら、調べる意義があります。

 

血清フェリチンとは?

血液中にある鉄は、血清鉄と呼ばれています。検査結果では、Feと書いてあります。流れている血液に含まれる鉄のイメージです。

一方、肝臓を中心にして、脾臓、骨髄にフェリチンという形で貯蔵されている鉄を貯蔵鉄と呼びます。

 

鉄不足が引き起こす「むずむず脚」の症状

寝る前に起きる脚の不快な症状で悩んでいるとき、女性では次のパターンが多い印象です。

血清フェリチンが低い

体内の鉄不足

中枢神経系のドパミンの機能低下

むずむず脚の症状

 

貧血と鉄不足の基礎知識について

むずむず脚症候群の原因の中で、注目したいものは、鉄分の不足と貧血です。

鉄不足に伴う貧血を、「鉄欠乏性貧血」と言います。

 

ヘモグロビンの値で評価します。

男女で基準値が異なりますが、ざっくりと正常と異常の境目は、次の通りです(成人の場合)。

男性:13.0g/dl

女性:12.0g/dl

基準値を下回れば、貧血と言います。

 

一方、貯蔵鉄のマーカーであるフェリチンの基準値は、次の通りです。

男性:13~277 ng/ml

女性: 5~152 ng/ml

フェリチンの数値が高ければ、体内の鉄分が豊富にあると判断します。

 

体内に「鉄の貯金」がどれだけあるかをみる指標とイメージすると良いです。

当然、フェリチンが低い数字であれば、鉄不足を意味します。

 

ただし、慢性炎症に伴う貧血でも、フェリチンは上昇します。今後、取り上げる予定です。

 

次回、血液検査の結果の詳しい見方と治療管理を予定します(つづく)。

むずむず脚に合併する周期性四肢運動とは

むずむず脚は周期性四肢運動を高率に合併する

前回、レストレスレッグス脚症候群(restless legs syndrome: RLS)の基礎知識を書きました。

今回は、脚がピクッと動く症状を解説します。

「寝てると、足がぴくぴくする」

「パートナーの足が寝てるときに定期的に痙攣して気になる」

こんな経験ありませんか?

もしかしたら、周期性四肢運動かもしれません。

英語では、脚がピクッと動くことを、twitchingと言います。日本語では表現しにくいのですが、「脚のぴくつき」などと呼ばれています。稀に、腕にも症状が出ることもあります。

むずむず脚症候群では、周期性四肢運動が同時に見つかることが多いのです。「足の動き」が、不眠の原因となります。

 

むずむず脚症候群との関連は?

むずむず脚症候群は「本人が感じる脚の症状」です。

「脚が気になって寝付かれない」という不眠の訴えが、多いです。

ムズムズ脚で困っている方を診察すると、80%くらいに、睡眠中に脚がぴくっと動く症状がみられることが分かっています。周期的に脚が動くので、周期性四肢運動と呼ばれています。定期的に20秒から40秒間隔で起こる「足がぴくっと動く」ものです。

寝ているときに起こるので・・・

Periodic limb movements in sleep(PLMS)とも呼ばれます。略して、PLMSです。

 

診断するには

・周期性四肢運動が1時間あたり15回以上ある。

・夜の睡眠あるいは日中の活動に支障が出ている。

上記の場合に、周期性四肢運動障害と呼びます。

英語では、Periodic limb movement disorderです。略して、PLMDと言います。先ほど書いたPLMSとは、一文字違いです。

 

RLSとPLMDの違いを簡単に理解するには

むずむず脚症候群:主観的なもの(症状による診断)

→ RLSは、問診が主体です。

周期性四肢運動障害:客観的な脚の動き+夜間あるいは日中の症状に影響している

→ PLMDでは、終夜睡眠ポリグラフ検査(polysomnography:PSG)による評価が必要です。

「足のピクつき」は、脳への覚醒、心拍数の上昇を引き起こします。そして、熟睡感が出ない、昼間の眠気という訴えにつながります。

 

「最近、よく眠れない・・・」

「仕事中、眠い」

 

 

不眠でお困りの方、パートナーに「足の動き」があるか、見てもらうと手がかりになります。

 

本人とベッドパートナーへの影響

むずむず脚症候群で悩んでいる方は、寝る前に足を動かしたい症状が出ます。そのため、同じベッドで眠ると、足をそわそわ動かします。

むずむず脚の特徴は、足を動かすことで症状が軽くなるので、頻繁に脚を動かします。8割の方々が、周期性四肢運動が生じる背景があるので、寝てからも脚がぴくっと動くことになります。

 

「パートナーが寝ている時に、足がピクッと何回も動いて気になる」

「動きが気になって、寝れない・・・」

 

 

本人もつらい脚の症状ですが、「ベッドパートナーの睡眠も妨げられる」ことが問題になることも。本人のむずむず脚の症状と周期性四肢運動が、隣で眠っている人の睡眠に影響します。

 

病院の何科にかかれば良いか?

周期性四肢運動障害に対応する診療科は、
神経内科、精神科が主体になります。

日本睡眠学会のホームページには、
睡眠を専門とする医師の一覧があります。

 

次回、むずむず脚の原因を調べるための血液検査を紹介します(つづく)。

女性に多い睡眠障害「むずむず脚症候群」

脚の症状が気になり寝付けない方へ

岐阜市で「睡眠の病気」を専門的に診察している阪野勝久です。

女性が不眠で困っていて、診察してみると、むずむず脚のことがあります。

 

「夜、足に不快な感じがして、眠れない」

「じっとしていられない・・・」

うまく眠れないので、仕事や家事に集中できず、日常生活にも影響が出ます。

テレビ、雑誌、ラジオなどのマスメディアに取り上げるようになったので、すでに知っている人が多いかもしれません。

今回は、20年近く睡眠の病気を診察している医師の視点から紹介していきます。
 

どんな病気か?

「もしかして、むずむず脚症候群なのかな?」

女性の不眠で悩んでいる方で、この病気が見つかることがあります。

睡眠障害の国際分類(3版)から簡潔にまとめました。

診断基準について紹介します。

1.脚に不快な感覚があり、動かしたくなる。

むずむず脚の症状は、次の三つが特徴です。

・安静にしているときに症状が出現する。
(横になっているとき、座っているとき)
・ストレッチや運動によって、症状が軽くなる。
・日中より、夕方から夜の症状が有意にひどい。

2.むずむず脚の症状が他の病気の症状で、説明できない。

3.睡眠の質が低下する、精神状態、教育上および職業上のパフォーマンスに影響する※。

※要するに、日常生活に影響することです。
 

昼間の症状に注目すると

夜、うまく眠れないので、「昼間の眠気があって困る」という相談も受けます。

よく聞いてみると、むずむず脚で眠れない結果、翌日の眠気が生じていることが分かることもあります。
 

病気を発見する手がかりになる症状と行動

・会社で長時間イスに座っているとき、脚の症状が気になりつらい。

・長距離ドライブのとき、脚を動かしたくなるので、サービスエリアに立ち寄る回数が多い。

・長い映画のとき、脚をそわそわしている。落ち着かない症状がある。


 

病院の外来において

インターネットで情報を収集して、病院で診断と治療の相談をするとき、さまざまな思いで来院されています。

「どんな検査が必要なのかしら」

「ドパミンが効くと書いてあったから薬を欲しい」

「原因が分からなくて、病院を何件も回りました」

岐阜市にある筆者のクリニックでは、治療の相談を受けています。中には、思春期、妊娠、授乳中の女性が県外からも、悩んで問い合わせてきます。

どんな検査が必要か、原因は何か、薬にはどんな種類があるかを取り上げる予定です。
 

どんな感じで診察されるか?

病院によって、診察の方法はさまざまです。

睡眠クリニックでは、独自に使用している
問診票を記入することが多いです。

診察の前に、看護師、臨床検査技師の
聞き取りがある場合もあります。

ドクターが直接、カルテ登録が終わってから
診ることもあります。

今までの経過、他の病院でどんな病気を治療しているか、飲んでいる薬など、問診します。
 

診断と治療について

現在、困っている症状が、先ほどの「むずむず脚症候群の診断基準」をすべて満たしているかを調べます。その後、外来で原因検査のため血液検査を行うことが多いです。検査結果をみて、治療の方向性を決めます。

ドパミンアゴニストと呼ばれる薬を処方することもありますが、女性の場合、検査結果をみてから、「鉄剤による治療」を優先することがあります。

※今後、詳しく取り上げます。
 

最後に用語について補足します

呼び方が、統一されていないのが現状です。

・むずむず脚症候群

・レストレスレッグス症候群

・下肢静止不能症候群

・エクボム症候群

英語では、restless legs syndromeです。
略して、RLSと呼びます。

この病気の症状の発見と報告を行った、Thomas WillisとKarl-Axel Ekbomの両者の名前から、Willis-Ekbom Disorder(WED)とも呼ばれます。
 
 
次回は、むずむず脚症候群に合併することが多い
周期性四肢運動について紹介します(つづく)。

Twitterはじめました

今般、阪野クリニック院長である阪野勝久のツイッターを開設しました。

季節ごとに流行する病気のこと、生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症など)、
不眠、日中の眠気、いびき、睡眠時無呼吸、夜間の異常行動、むずむず脚の症状など、
睡眠障害の話題などをツイートしていく予定です。

https://twitter.com/dr_banno

ウェブサイト管理者 睡眠専門医 阪野勝久(ばんのかつひさ)